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2012/04/06

<トピックス>私の日韓経済比較論 第15回 韓国でも厳しい大学生の就職                                                      大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

  • 私の日韓経済比較論 第15回 韓国でも厳しい大学生の就職

    会社説明会に殺到する韓国の学生たち

◆4年生大卒業しても45%が非正規職◆

 日本では入社式が終わり、多くの学生が社会人としての第一歩を踏み出した。しかし一方では、4月になっても社会人になれず、就職活動を継続している人も少なくない。厚生労働省によれば、大学卒業予定者の就職内定率は、2月1日現在で80・5%と厳しい数字である。

 韓国においては大学生の就職はどうなのだろうか。2006~10年の実質経済成長率の平均値を見ると、韓国は3・8%、日本は0・0%である。潜在成長率は、日本は1%前後である一方で、韓国は4%程度であり、日本に比べ韓国では雇用を増やす余地があるように見える。よって韓国の就職事情はそれほど厳しくないのではと思えば、それは大きな間違いで、韓国の学生も日本並み、あるいは日本以上に厳しい就職活動を強いられている。

 これを数値で見ていこう。日本企業は新卒採用にこだわっているが、韓国では卒業後1年程度であれば既卒でも問題がないので、韓国では大学卒業予定者の就職内定率はあまり意味がない。そこで大学を卒業しても非正規職として就職せざるをえない者の比率を、経済活動人口調査青年層付加調査の個票データにより算出してみよう。

 四年制大学の卒業生が初職で非正規職として就職した比率を見ると、01~06年には30%台の後半で推移していた。そして06年からしばらく30%台の前半に低下したが、リーマン・ショック後の09年の卒業生になって急に数値が高まり、10年には45%にまで高まっている。まさに四年制大学を出ても半数近くの人が正規職として就職できないことを、この数値は物語っており、日本より状況が相当厳しいと考えられる。

 韓国では過剰教育が指摘されている。過剰教育とは、高校卒業程度の教育水準で足りる職業に大卒が就くなど、職務遂行に必要とされる教育水準より働いている人が高学歴であることで、せっかくの人的資本を無駄にしていることを意味している。ある研究によれば、四年制大学卒業生の49・5%が、身につけた教育水準を必要としない職業に就いている。よって半数近くが非正規職としての就職を余儀なくされる状況では、せっかくの知識を活かせない場合が多いと推測される。

 韓国では高度成長とは言えないまでも中成長は維持しており、今後も雇用増が見込まれるが、なぜこのように大学生の就職が厳しいのであろうか。理由の一つとして、厳しい解雇規制が挙げられる。「45停(サオジョン)」、「56盗(オーリュクト)」という言葉からは、韓国ではリストラが簡単のような印象を受ける。しかしこれは一部のホワイトカラーにおける現象に過ぎず、正規職を解雇する場合には極めて厳しい条件を満たす必要がある。

 97年の通貨危機までは、本格的な景気後退がそれほど起こらず、景気後退期における雇用調整の必要性を、企業はそれほど感じていなかった。

 しかし、通貨危機時に深刻な不況を体験し、雇用調整の重要性に気づいた企業は、雇用調整が容易な非正規職の比率を高めるようになった。正規職をリストラして非正規職に置き換えるより、学生を非正規職として採用する方が数段容易である。

 そこで企業は、学生の正規職採用を幹部候補生に絞り、残りは非正規職採用としたため、正規職としての就職が狭き門となった。

 韓国では、正規職として就職するためには「英語」「成績」「資格」の3点セットが必須であり、これらを獲得するため、大学生は必死で勉強している。しかしこれらは十分条件ではなく、3点セットを揃えても大学生は就職に苦労している。日本より受験戦争が厳しい韓国、就職戦線も日本より厳しそうである。