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2012/07/06

<トピックス>私の日韓経済比較論 第18回 もはや日本を追いかける国ではない                                                      大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

◆一人当たりGDP「2017年に韓国が日本を抜く」◆

 「韓国経済は日本を猛烈に追いかけている。しかし日本が追い抜かれる日は遠い未来である」というのが一般的な認識ではなかろうか。経済規模を測る指標で一般的なものはGDPであろう。そして一人当たりGDPは、一人ひとりの豊かさを表す最重要な指標として、常に注目されている。

 この一人当たりGDPに関して衝撃的な記事が、今年4月28日に発売されたイギリスのエコノミスト誌に掲載された。「A game of leapfrog」と題された記事であるが、韓国が近い将来、日本より豊かになるかもしれないとされている。この記事によると、日本の一人当たりGDPは、5年後の2017年には韓国に抜かれてしまう。

 IMFのデータベースから、2010年における一人当たりGDPを確認すると、日本は4万3015㌦、韓国は2万765㌦であり、いまだに日本がダブルスコアの差をつけている。

 これが5年後に逆転されるということは、為替レートが変化しない場合、韓国の一人当たりGDPの成長率が、日本を毎年15・7%ずつ上回らなければならない。

 これはいくら韓国の成長率が日本より高いといっても不可能な数字であり、エコノミスト誌の誤報ではないかと思った人もいたのではないだろうか。

 しかしこの記事は誤報ではなく、IMFが公表した、購買力平価で測った一人当たりGDP見通しを見ると、17年には、日本が4万2753㌦、韓国が4万3141㌦と、確かに韓国の数値が日本を上回っている。購買力平価は異なった他国の通貨を自国通貨などに換算するレートであるが、我々が日常的に目にする市場為替レートとは異なる。

 そこで購買力平価について、総務省ホームページ「国際比較プログラム(ICP)への参加」及び、「08年基準購買力平価 測定値と利用(仮訳)」を参考に解説しよう。

 購買力平価は、それぞれの通貨が有する購買力、すなわち、買える財やサービスの量が等しくなるように計算して求められる。具体的には、多くの比較可能で代表的な財及びサービスで構成されたバスケットの価格が等しくなるレートを算出する。

 このような購買力平価は、①貿易の対象にはならない国内の物価 (例えば、教育、医療、政府サービス等)が反映される②投機や国家間の資本移動の影響を受けないといったメリットがある。よって、一人当たりGDPによって得られる物質的な幸福度の比較などを行う際には、市場為替レートを使うより意義のある比較が可能となる。

 市場為替レートは、投機などの影響もあり、日本円がドルに対して割高に、韓国ウォンが割安に評価されている可能性が高い。よって、市場為替レートで円とウォンをドルに換算すると、韓国に比べて日本の一人当たりGDPが過大評価される。

 実際にIMFが算出した購買力平価によると、10年には100ウォン=13・3円であるが、市場為替レートでは100ウォン=7・6円である。よって市場為替レートによれば、購買力平価に比べて、円が74%ほど高く評価されている。

 このような円が過大評価されたレートで測れば、10年の日本の一人当たりGDPは韓国の2倍以上となるが、購買力平価で測れば1・14倍に過ぎない。これであれば、韓国の一人当たりGDPの成長率が、日本を毎年2・7%ずつ上回れば足り、日韓の経済成長率の差を見ても、十分に達成できる数値である。

 なお購買力平価は、算出方法によって数値が異なるとの問題点があるが、OECDが算出した数値で見ても、円が77%ほど高く評価されている。よって円とウォンについて見る限り、購買力平価の数値に大きなばらつきはなさそうである。

 エコノミスト誌の指摘、すなわち、日本の一人当たりGDPは5年後に韓国に抜かれる事実は、多くの日本人が抱いていると考えられる、「韓国は日本を追いかける国」といったイメージを覆すものである。