◆失業給付金不十分なため悪条件でも再就職急ぐ◆
10月26日、韓国銀行より2012年7―9月のGDP成長率の速報値が公表された。これによると、前期比で0・2%の成長にとどまり、景気後退が鮮明になった。
これに先立つ9月に韓国開発研究院(KDI)は、今年の成長率見通しを3・6%から2・5%、来年は4・1%から3・4%に下方修正した。さらに10月には、韓国銀行が同じく成長率見通しを今年3%、来年3・8%から、それぞれ2・4%、3・2%とした。韓国の潜在成長率は4%強であるので、これら数値は、少なくとも来年までは本調子には戻らないことを意味している。
景気が悪いと失業率が上がる。これは経済学の基本とも言える事象である。さぞや韓国の失業率は高いのかと思いきや、9月には3・1%(季節調整値)であった。
一方、欧州に目を転じると、8月には最悪のスペインで25・1%、加盟国平均で11・4%、最低のオーストリアでも4・5%と韓国と比べて高水準である。また日本でも9月で4・2%である。なぜこれほど韓国の失業率は低いのであろうか。韓国の失業統計は、ILOが定めた基準により算出され、国際比較が可能な数値であるので、統計作成上のテクニカルな問題ではなさそうである。
韓国で失業率が低い理由は①構造的失業率が低い②需要不足型失業率が低い、との2つに分けて考える必要がある。まず前者の構造的失業率である。経済協力開発機構(OECD)の推計によれば、12年における韓国の構造的失業率は3・7%であり、欧州地
域の9・1%と比較して顕著に低い水準である。このように構造的失業率が低い理由としては、韓国の専門家による見解から、以下の点を挙げることができる。
第一は失業給付である。韓国における給付金額は、離職前平均賃金の50%であり、上限が4万ウォンに設定されているなど、かなり低く抑えられている。また支給期間は、勤続期間や年齢によって異なるが、90日から240日と短期間に設定されている。
さらにKDIの兪京濬(ユ・ギョンジュン)財政・社会政策研究部長によれば、韓国では雇用保険に未加入である被雇用者が多く、非正規職、また特に従業員数が10名未満の企業ではその傾向が顕著である。そして自己都合退職では原則的に失業給付を受け取れない。よって職から離れた場合、悪い条件でも急いで再就職するか、あるいは職探しを中断して非経済活動人口になる人が多く、失業者としてとどまる人は少ない。
第二は賃金交渉の形態である。韓国では企業別に賃金交渉が行われる傾向があり、組合交渉力の強い一部企業の労働者の賃金は高まるが、これが一般的に広がらない傾向にある。例えば、最近は小規模企業の賃金引上率が非常に低いなど、全体でみた賃金はそれほど高まっていない。よって賃金の硬直性による失業が発生しにくくなっている。
一方で欧州では、失業給付や給付期間が相対的に手厚く、職から離れた人が長期間失業者としてとどまる傾向にある。さらに賃金交渉は産業別に行われ、組合交渉で妥結した賃金引上率が産業全体で共有される傾向にある。
よって全体的に賃金が高まり、賃金の硬直性により失業が発生することとなる。
次に需要不足型失業率が低い理由である。韓国では景気後退の真っただ中にあるためこれが高くても不思議はない。しかし最近が景気後退にもかかわらず就業者数が増えている。この要因としてはパートタイムおよび自営業の増加が挙げられる。まずパートタイムの増加の理由である。先述の兪京濬財政・社会政策研究部長によれば、政府でも短時間勤労に対する積極的な支援をしているといった需要側要因、女性が家計を助けるためにパートタイムを始めるといった供給側要因が挙げられる。また自営業者の増加は、退職後に自営業を始める中高年が増えていることが要因である。
今後景気後退が長引けば、需要不足型失業率が高まる可能性はあるが、当面は韓国の低
失業率は続くと予想される。