韓日間の最大の経済懸案である対日貿易逆調(赤字)問題。長年にわたり是正策が論議され、対策も講じられてきたが、一向に改善する気配がないのはなぜなのか。日本貿易振興機構アジア経済研究所が最近、この問題に一石を投じる研究書を発表した。本来何が問題で、是正のためにはどうすべきなのか、従来ほとんど議論されなかった根本的な問題を提起している。
アジア経済研究所は、韓国の対日貿易赤字の原因を明らかにし、問題の解決に資することを目的に2009年から2年間、研究会を組織し、その研究結果をアジ研選書No.26「韓国の輸出戦略と技術ネットワーク-家電・情報産業にみる対日赤字問題」(水野順子編)にまとめた。
この研究会は、住友商事総合研究所の藤田徹氏が2008年11月に開催された第9回現代韓国朝鮮学会大会で、「韓国の対日貿易逆調は解消できるのか?-韓国側の対日貿易不均衡是正要求の内容は妥当か」というテーマの論文を発表したことが大きなきっかけになっている。
藤田氏は、商社マンとして韓国に長く駐在経験があり、ビジネスの視点から韓日の経済関係を長年にわたり見てきた。
本書では、これまで韓国側が主張してきた、対日赤字の原因は日本からの部品・素材の輸入であり、その部品・素材を生産する日本の中小企業が韓国で現地生産して赤字を解消すべきだ、という主張が正しいのか詳細に検証した。
まず、韓国が日本から輸入している品目は、機械類、化学工業製品、電子電気製品、鉄鋼金属製品が全体の90%近くを占めており、部品・素材だけではない上、部品・素材の定義が曖昧で、赤字の原因が部品・素材にあると断定することはできないことを示した。
また、日本が韓国向けに輸出している品目のほとんどが大企業の製品であり、中小企業が生産して直接韓国に輸出している品目はごくわずかにすぎないことを実証。
このため、日本の中小企業が韓国に投資して現地生産しても、対日逆調の改善にはほとんど貢献しないため、日韓の中小企業の協力などは、対日赤字問題とは全く別に考えるべきであると提案した。
藤田氏は、対日赤字の原因を正確に理解した上で対応策を検討しなければ有効な効果がでないと指摘、次のように結論付けている。
「韓国が主張する対日逆調の論議が問題の本質を正しく捉えていないため、これまでの議論を踏襲する限り対日逆調は解決されないし、日韓経済関係の改善にも繋がらない」
「対日逆調は韓国経済の構造的な根本問題であり、長い年月をかけて韓国政府と企業が相当の努力をしなければ解決しない大きな課題である。将来的に日韓貿易を拡大均衡させるという長期的視点に立って捉えるべき問題であって、短期的に解決しようという議論は適当でない」
また、編者の水野順子氏は「韓国が今後、独自に設備から開発する製品を世界に送り出すようになれば、対日赤字は縮小することが予想されるが、それが企業経営を黒字にする経営モデルとは限らないので、対日赤字は当分続くとみている」と指摘、企業経営のあり方にまで踏み込んで論じている。