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2012/03/23

<トピックス>経済・経営コラム 第41回 日本のデジタル家電完敗、その再生を提案する                                                       西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

  • 経済・経営コラム 第41回 日本のデジタル家電完敗、その再生を提案する

    ラスベガス家電ショーのサムスンブースに展示された有機ELテレビコーナーは大賑わいだった

◆デジタル業界再編し、8社から2社へ◆

 日本のデジタル家電主要3社(パナソニック、ソニー、シャープ)の2011年度の業績は、目を覆うばかりの惨状で、「さながら、巨大な氷山が大きな音をたてて崩れ落ちている」と表現するしかない。3社共倒れである。サムスン電子に世界市場で完敗したのだ。 

 私自身は、内心では、「だから言わんこっちゃない」と思った。5年も前から、「遠からずこうなる」ことを、本紙をはじめ、単著や講演会などで警告し続けてきたからだ。しかし、内心とは裏腹に、デジタル家電産業の再生を期待していて、その方向を提示するのが研究者としての使命だとも思っている。事実を受け入れて立ち直ればよい。その思いで本稿をしたためている。

 日本勢3社の11年度の業績予想を、サムスン電子のそれと比較してみる。敗者・日本3社と勝者・サムスンの違いが際立っている。日本勢はガタイ(売上高)が大きくてサムスンの1・45倍(16兆9500億円)だが、中身(営業利益)はサムスンの10分の1しかない(1500億円)。実際の決算では、中身がさらに減る見通しだと言う。純利益では、日本勢は3社とも大赤字だ。合計1兆2900億円の巨額で、サムスンの黒字9600億円とでは天と地の差がついた。日本勢の完敗だ。

 日本勢は「売れば売るほど赤字」になる薄型テレビをたれ流し続け、サムスン電子は薄型テレビだけでなくスマートフォンや半導体も含めて全社で黒字をしっかり生むビジネス・モデルを持っている。

 サムスンの部門別の業績をみる。液晶パネルだけは大幅な価格下落で赤字だ。薄型テレビでの世界一のシェアを高めるために広告・販促などのマーケティング投資や価格競争対応を積極的に展開したので、デジタル家電部門の売上高は約4兆1200億円だが、営業利益はわずか1000億円にとどまった。アップルを越えて販売台数世界一のスマートフォンを擁する通信機部門も巨額のマーケティング投資をしたが、全社の五割強の営業利益をたたき出した(約5780億円)。そしてシェア世界一の半導体部門が45%の営業利益を稼いだ。

 薄型テレビとスマートフォンで、世界中でサムスン・ブランドの資産が更に一段と強くなったのは間違いない。

 日本勢はパネルも、半導体も、テレビも全て赤字である。日本勢の敗退は、世間で言われるような、超円高・ウォン安や東日本大震災によるSCN(部材や完成品の供給網)の寸断の外的要因よりも、テレビが駄目なら全社がたちまち大赤字になる自前主義・垂直統合の、そして高コスト体質のビジネス・モデルの剛直性にある。しかも、テレビを中心にした将来のネットワーク時代の成長戦略も不在である。

 サムスン電子のビジネス・モデルの中に、将来も勝者であり続けようとするデジタル家電の長期戦略が透けて見える。今後は、周知のように、スマートテレビに代表されるように、テレビを中心にしたネットワーク化したホーム・エンターテインメントの時代に向かっている。

 テレビ・PC、スマートフォンといった個々の機械の性能・機能価値競争から、それらをネットワーク化して利用する・楽しむソフト価値競争の時代になると言い換えてもよい。価値が転換しても、「信頼・スマート・クール」のブランド資産が確立していれば世界中の消費者の愛顧を維持することができるのだ。サムスンは、薄型テレビの世界トップの地位を固めさらに一段と高いレベルに突き進んでいる(10年→11年で、シェアは19%→23%へ)。しかも、次の有機ELテレビへ巨額投資を実行中だ。スマートフォンもさらに上に向かって研究開発や設備投資を強化している。世界中の消費者やその家庭の中に、サムスン・ブランドの楔を打ち込み彼らを囲い込んでいる。将来のネットワーク時代の顧客ベースを拡大しているのだ。

 日本勢が、薄型テレビで世界中のプレゼンスを弱めるほど、デジタル家電の次の時代へのアクセスが遠のいていく。

 日本勢3社は、薄型テレビの販売台数目標を下げ、主ディバイスであるパネルの生産を半減するなど、2~3カ月間の生産中止を決めた。赤字の拡大を防ぐためだ。今後の成長軸を転換して環境対応分野(太陽光発電を中心にした家庭用スマート・エネルギー、車搭載用のリチウムイオン電池など)に注力すると言う。いわば各社の逃げの戦略だが、この分野もまた、遠からずサムスンに追い越され引き離されるに違いない。有機ELやスマートフォン、そしてスマートテレビの開発に本気でとり組む意図はないのか、それとも、今の赤字体質ではその資金を回すことができないのか。

 日本のデジタル家電の再生を実現してほしい。業界のためだけでなく、日本の先端技術の産業ピラミッドとその技術連鎖を守るためにも、国家事業として取り組んでほしい。業界再編・事業再編を是非にも実行すべきだ。

 電機8社のデジタル家電関連事業を、肉を切り血を流して、たとえば、強いデジタル家電2社に組みかえる。業界の自主的なコミットメントと政府の強い支援が必要だ。その2社が、世界中で現地対応のVC(顧客価値連鎖)を差別優位に構築しつつ、次世代のホーム・エンターテインメントの世界の主導権をサムスン電子やLG電子と争ってもらいたい。強者同士の競争こそが新しい革新の時代を拓く。