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2012/09/21

<トピックス>経済・経営コラム 第47回 対照的な日本と韓国の経済課題                                                       西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆日本はパイの拡大、韓国はパイの公正な配分を実現せよ◆

 日本では消費税増税が実現して、国の1200兆円もの借金・財政赤字の更なる拡大にある程度の歯止めがかかった。とはいっても、経済が成長して国民の所得が伸びない限り、増税は内需の縮小(個人消費や政府消費の減退)→税収減というネガティブな結果をもたらす。

 しかし現状は、国家の成長戦略もなく経済は足踏み状態だ。成長戦略のなさが、異常な円高の是正もできず、電力不足が慢性化して国内生産の空洞化が広がり、FTA網の拡大戦略の停滞が企業の国際展開の手足を縛り、放置したままの世界一高い法人税が企業の投資力を削ぐなどの、企業を痛めつける経済環境を招来したのだ。

 企業活動の総体が経済であるから、日本企業が国内外の市場で収益を伸ばして国民の所得を増やす。そして、個人消費や投資が拡大することで経済が成長する。そのためにこそ、極々当たり前に国家がやるべき環境整備をしてもらいたい。

 韓国では、サムスンや現代などの財閥企業グループの国内外の業績が大変好調だ。一方では収益がこれら大企業グループに集中していて、国民の圧倒的大多数である中間・低所得層の所得が増えないまま、家計負債はますます肥大しているため、内需=個人消費が低迷して、経済成長の鈍化が顕著になっている。

 政府はサムスン、現代自、 LGなどの5大企業グループに投資を拡大して雇用を増やすことを求めた。個人消費を活性化したいからだが、投資拡大の結果は、「経済民主化=大企業グループの活動規制」を求める国民の意に反して、5大企業グループに更に大きな収益が集まることになるだろう。

 根本的に必要なことは、大企業グループの投資に頼るだけでなく、圧倒的に大多数の中小企業の競争力を高め、従業員の所得を底上げする積極的な経済政策を実行することだ。そのために、大企業が稼いだ収益を、中小企業を育て、内需を持続的に拡大するためにどう生産的に活用するかである。

 日韓両国の経済運営は、企業がこれから国内外で稼ぐ支援をする成長戦略(日本)、企業が稼いだ富の国民への公正な(公平ではない)分配戦略(韓国)、質的には違うが、必ず解決すべき大きな課題を抱えている。

 両国の2大基幹産業である電気・電子と自動車の業績が、上で述べた経済運営に与えるインパクトを考えてみる。両産業の売上高は、それぞれのGDPの20%~30%にも相当し、鉄鋼や部品・デバイスなどの素材・中間財産業、住宅・保険・交通・旅行・映像娯楽などの関連産業、モノ造りの根幹である電気・電子技術、IT技術、エンジン技術などの開発を含めると、経済の隅々まで影響を与えている。

 日本では、なかでもデジタル家電を再生させることが、経済成長の大きなカギを握っている。韓国では、世界最強のデジタル家電の業績を国民の所得向上にどうつなげるか、である。両国の自動車産業はともに、世界をリードし収益性もよく、両国経済の最大の柱である。

 デジタル家電では、日本企業3社(パナソニック、ソニー、シャープ)は2011年度、薄型テレビで社運をかけて挑戦したサムスンに完敗して過去最大の赤字を計上した。今年度上期、3社は相次いで人員削減などリストラを実施し、薄型テレビなどの売上目標を下方修正している。パナソニックとソニーは今期の黒字を計画し、シャープは今年度も大幅な赤字見込みだ。実態は3社とも縮小均衡を目指しているだけで、今後の成長戦略(成長を牽引する商品戦略や事業戦略)やそれに見合った投資戦略は皆無である。パナソニックは、復活の「自信も覚悟もある」(大坪文雄会長)と言うが、具体的な復活戦略は見えない。

 シャープは、液晶テレビやスマートフォンで台湾・鴻海精密と提携し企業の存続をねらう一方で、複写機や空調機器などの主要収益事業を売却する方針だ。日本経済を支えてきたデジタル家電企業は、ここまで劣化しているのだ。劣化させた3社の経営責任を等閑視できないが、政府が支援しつつ業界の再編成が必要だ。

 一方サムスンは、2012年に入っても過去最高の売上と収益を更新している。上期の営業利益は14%に近い。世界トップのスマートフォン事業が売上・利益を牽引して、全営業利益の67%強をたたき出した。薄型テレビで、先進国での成長は止まったが、中国やインドなど新興市場の成長は今後とも続くと予測されている。サムスンは、大きく後退した日本勢を尻目に、世界一の地位を一段と高め、かつての日本勢よりも高い5・7%の営業利益を計上した。世界中でサムスン・ブランドの高いイメージを支えているアイコン商品でもある。サムスンの強さは当面揺るがないだろう。

 自動車では、2012年上期、日本(トヨタ)・韓国(現代/起亜)・ドイツ(VW)の主要企業が全世界で躍進を続けた。アメリカ勢(GM、フォード)が停滞、フランス勢(ルノー、PSA)がマイナス成長だ。世界市場(販売台数)は、欧州(△7%)、ブラジル(△1%)、中国(+3%に急減速)を除いて、日本(+54%)、アメリカ(+15%)、インド(+12%)、アセアン(+21%)が大きく伸長した。トヨタが対前年で+34%の販売台数を達成して世界一を奪還した。上期は497万台で、史上初の年間1000万台が視野に入った。VW+9%と現代・起亜+12%が続いている。日産とホンダも快走している。日韓両国勢が同時に、08年のリーマンショック以来、12年の4半期ベースで過去最高の売上と営業利益をあげた。

 トヨタや日産、そしてホンダは、政府の無為無策の不利な環境下で、国内外での成長を実現する競争力・経営力を示した。現代/起亜は、インドなどの新興市場、そしてアメリカや欧州の先進市場でもブランド力を更に高めて世界5位の地位を盤石にした。