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2013/04/05

<トピックス>私の日韓経済比較論 第27回 住民登録番号制度                                                      大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

  • 私の日韓経済比較論 第27回 住民登録番号制度

    韓国の住民登録証

◆62年番号付与、68年登録証発行・不正受給防止に威力発揮◆

 韓国では生活に溶け込んでいる住民登録番号であるが、日本では国民の個々に割り振られた番号はない。

 しかし先月にようやく、国民の納税や年金の情報などを管理することを目的とする共通番号制度の導入に向けた法案が閣議決定された。とはいっても共通番号が国民に割り振られ、これによって情報が一元管理されるまでは、まだまだ相当程度の時間がかかると予想される。

 韓国では1962年から住民登録番号が国民に付与され、68年から住民登録証が発行されるようになった。

 住民登録番号は、韓国国民に対して個人ごとに付与される13桁の番号であり、出生から死亡するまで番号が変わることはない。

 そして17歳以上の者には、姓名、顔写真、住民登録番号、指紋などが示された住民登録証が発給され、国、地方、公共団体、企業などが、身分を確認する必要がある場合、住民登録証を確認することが義務づけられている。

 銀行口座開設、土地登記、自動車登録、税の納付、年金にかかる手続きなど様々な手続きに際して、必ず住民登録番号が必要であり、個人名のみならず住民登録番号とセットで登録される。また最近はインターネットの実名制にともない、サイトへの加入のために住民登録番号の入力が求められるケースも増えている。

 日本で共通番号制度を導入する目的は、税と社会保障の情報を一元化することであるが、韓国では、まさに住民登録番号により、様々な情報が管理されており、国民基礎生活保障の不正受給防止などに威力を発揮している。そしてこれを可能にしているハード的な基盤が、「社会福祉統合管理網」である。愛称は「幸福eウム」であるが、以下では意訳して「幸福ネットワーク」と記述する。

 幸福ネットワークは、27の機関が所有している215種類の所得および財産情報、福祉サービス履歴が連携しており、地方自治体の社会福祉担当者が利用している。各機関が有する所得・財産情報は、各機関のフォーマットで蓄積されていたが、幸福ネットワークではこれらをすべて標準化して、一元管理できるようにした。

 日本では社会福祉にかかる給付の際に、縦割りの組織、また名寄せの壁がある。

 しかし幸福ネットワークを利用すれば、同じ機関なのに他部局の情報を持っていないといった問題は起こらず、同一人物の様々な所得・財産情報を一括して参照できる。また幸福ネットワークの優れたところは、民間の金融機関とも連携しているため、特に収集が難しい金融財産にかかる情報を把握することができることである。

 幸福ネットワークは、徴税や社会保障給付などにかかる事務を円滑に行うために役立っているが、一例として国民基礎生活保障の不正受給の防止にも貢献している。本人はもとより、扶養義務者の所得・財産まで把握できることから、財産を隠して給付を受ける、あるいは扶養義務者の所得を偽って給付を受けることは不可能に近い。

 韓国の国民基礎生活保障については、所得が高額とまでは言えない扶養義務者についても、扶養能力があると認定されるなど、認定基準が厳格すぎるといった批判はある。しかし基準がある以上は、正直に申告した人が給付を受けられず、虚偽の申告をした人が給付を受けるといった不平等は決してあってはならない。

 よって基準を緩めるか否かの議論とは切り離し、幸福ネットワークは、平等な社会保障給付の実現に大きく寄与していることは評価すべきである。そして幸福ネットワークを構築する前提条件である、住民登録番号が果たす役割は大きい。

 平等な社会保障給付を実現するインフラといった観点からは、日本は韓国から周回遅れの状態であると言えよう。