ここから本文です

2013/05/17

<トピックス>私の日韓経済比較論 第28回 国民基礎生活保障制度                                                      大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

◆公的扶助受給者の医療扶助を抑制◆

 日本の生活保護制度に相当するのが韓国の国民基礎生活保障制度である。国民基礎生活保障制度で真っ先に思い浮かぶのが生計給与であろう。これは健康で文化的な最低限の生活を営むことができるよう支給され、受給者は、生計給与から、衣服、食物および燃料費、その他に日常生活に基本的に必要な財・サービスを購入する。

 しかし2013年の国の一般会計の予算ベースでみれば、給与や給与のための管理費に占める支出のうち、生計給与は33%に過ぎない。そして57%が医療給与のための支出である。これは韓国に限ったことではなく、日本でも2011年の生活保護費に医療扶助が占める割合は47%と、生活扶助の35%を大きく上回っている。

 日本も韓国も公的扶助制度における医療扶助の大きさが問題となっているが、韓国では医療扶助を抑制するための仕組みを幾つか導入している。今回はこれら仕組みについて紹介してみよう。

 第一の仕組みは自己負担である。韓国の医療給与は、国民基礎生活保障法に受給者に対する給与が定められているが、医療給与に関する規定は医療給与法に分離されている。医療給与法では、国民基礎生活保障の受給者は、1種受給権者、2種受給権者の大きく2つに分類される。1種受給権者は、①18歳未満の者②65歳以上の者③重症障害者④疾病、負傷及び後遺症によって治療や療養の必要があり、勤労能力がないと判定された者⑤妊娠中あるいは分娩後6カ月未満の女性等である。

 つまり基本的には労働することが難しいと見なされる者がこれに該当する。一方、2種受給権者は、国民基礎生活保障の受給権者のうち、1種受給権者ではない者であり、労働することはできるが困窮している者である。

 1種受給権者の自己負担を確認しよう。まず入院はゼロである。外来は、医療機関によって差が生ずるが、上級総合病院で高度な医療サービスを受けない限り、1000~2000ウォンの負担ですむ。一方2種受給権者の自己負担は、入院の場合はかかった費用の10%を負担しなければならない。そして外来の場合、医院で診療を受ける場合は1000~1500ウォンの定額負担で済むが、病院や総合病院で診療を受ける場合は、かかった費用の15%を負担しなければならない。

 韓国保健社会研究院によれば、給与の対象となる医療サービス費全体に占める自己負担額の比率は、1種受給権者が1・0%である一方で、2種受給権者が6・7%とある程度の負担が強いられている。

 無論、国民健康保険加入者の27・6%と比較すれば自己負担が低く抑えられている。しかし日本の場合、生活保護受給者の医療費は、原則本人負担を求めていないことを勘案すれば、その是非はともかく、自己負担は医療給与費の抑制に寄与しているといえるだろう。

 第二の仕組みは各種の上限である。医療給与の日数は、慢性疾患等にかかっている受給者を別にして、1年で365日に制限されている。毎日通院しても、この日数であるので制限にならないと思う人もいるかもしれないが、1日複数の医療機関に通う受給者が少なくないので(過去には1年で6513日医療機関に通った受給者も報告されている)このような制限が必要なのである。また同一の疾病に対し同一の成分の薬剤を受け取る場合は、半年で215日分に制限されている。ただし受給者が医療給与を受けた日数、またどの薬剤を何日分受け取ったかを把握することは簡単ではない。

 しかし韓国では、07年に導入された「医療給与総合情報システム」等を通じて、これら情報が電算化されており、容易に管理できるようになっている。

 このように韓国では、公的扶助制度にかかる費用の多くを占めている医療扶助について、これを抑制する仕組みを導入している。

 医療扶助をいたずらに抑制することも問題であろうが、日本では、診療代が全額公費負担となることによりモラルハザードが生じるとった問題も指摘されている。韓国の医療給与はそのような問題解決のヒントになるかもしれない。