◆韓牛価格が早くも下落か?◆
7月23日をもって日本はTPP協定交渉へ参加した。TPP協定の交渉において、日本はコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、甘味資源作物といったセンシティブな農産物5品目について自由化しないことを目標としている。これまでの日本のFTAは、農産品の自由化を極力避ける方針があったため、実現したFTAは概ね日本側の自由化の程度が低いという結果になっている。
しかしTPP協定交渉においては、オーストラリアやニュージーランドが農産品の完全自由化を求めているなど、これら品目の全てを守り切れるか不透明な状況と言えよう。韓国もFTA交渉において農産品の自由化を極力避けてきた歴史がある。
最初に締結した韓チリFTAでは、農産品(韓国が輸入するもの。HS10ケタ基準)の30%弱について、WTOドーハ・ラウンドの妥結後に再協議するとされ、実質的には自由化しないこととされた。またインドとのFTAについては、それぞれ3分の2、半分程度を自由化対象から除外している。さらにASEANとのFTAでは、自由化対象から除外された農産品こそ少ないものの、完全な自由化は行わず税率の引き下げにとどまるものが4分の1ほどに達している。
しかし韓国農村経済研究院の刊行資料によれば、アメリカやEUとのFTAは、完全に自由化から除外できた農産品が、それぞれ2・0%、3・7%に過ぎなくなっている。つまり韓国は、アメリカやEUとFTA交渉を行うに当たって、農産品の自由化を避けることができなかったと言える。ただし3割を超える農産品については、完全な自由化まで10年以上の猶予期間を置いており、時間を稼ぐことには成功している。
さて韓米FTA交渉においては、韓国側はコメと牛肉を自由化対象から除くことを目指していたが、最終的にはコメは自由化除外、牛肉は15年間かけて少しずつ関税を下げ、最終的には自由化することで決着した。
自由化から除外できなかった牛肉であるが、①15年かけて徐々に関税を下げる点、②韓牛には競争力があり、アメリカ産牛肉との差別化が図れる点から、筆者は韓米FTAの影響がしばらく出ないとの見通しを持っていた。しかし韓米FTAから1年余りしか経過していない4月に、牛肉に影響が出たことをうかがわせる措置、具体的には被害補填直接支払金の対象品目に韓牛が指定されたことが公表された。FTA協定の履行により、該当年度の平均価格が、直前5年間の最低、最高値を除いた3年分の平均価格に90%を乗じた値より下落した等の発動要件を満たした場合、FTAにより農家が被害を受けたとして品目が指定される。そして指定された品目を生産する農家に対して、価格下落により被った損失額の90%が支払われる。
2012年における韓牛の基準価格は600㌔㌘当たり473万ウォンと算出されたが、実際の価格は466万ウォンであったので、発動要件を満たしたと認定された。つまり被害補填直接支払金の対象品目に韓牛が指定されたことは、韓米FTAが発効して早々に、韓牛がその影響を受けたことが示唆される。ただし農産品の価格下落は、①FTAによる関税引き下げのみならず、②国内供給増加、③国内需要減少によっても起きる可能性がある。
韓国農村経済研究院は価格下落を要因別に分解しており、その結果によると、12年の韓牛価格下落に占める韓米FTA影響は24・4%である。
韓牛の価格は下落したが、その4分の3は他の影響であると解釈すれば、まだ韓米FTAの影響はほとんど出ていないと見ることができる。一方で、12年の関税率は、40%から37・3%に下がったに過ぎないにもかかわらず、既に影響が出ていると考えることもでき、現時点では、心配すべき影響が出ているのか否か判断が難しい。韓米FTAが韓牛に与える影響については、しばらく注視する必要がありそうだ。