ここから本文です

2013/12/06

<トピックス>私の日韓経済比較論 第35回 韓国のTPP参加                                                      大東文化大学 高安 雄一 教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2013年より教授。

◆日韓の自由貿易圏実現の契機に◆

 韓国政府は11月29日、TPPに対する関心を正式に表明した。今後はすでに参加している国々と予備協議を行い、公式に参加希望を宣言することとなる。さらに、既存の参加国が韓国の参加を承認した後、13番目の参加国となる。

 予備交渉の結果、韓国が参加を断念する、あるいは既存の参加国が韓国の参加を承認しない可能性は限りなく小さい。韓国がTPPのルール作りに、若干でも参加できるかについては微妙であるが、参加すること自体は確定と言えよう。

 韓国が参加を決断した理由としては、先月この連載で記したように、日本の参加が挙げられる。日本以外のTPP参加国で、韓国とFTAを締結していない、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランドのGDPは、合計で日本に近い水準である。

 これら国々に対して、日本より不利な条件を受け入れることとなれば、韓国経済はマイナスの影響を受ける。産業通商資源部の資料によれば、韓国がTPPに参加しない場合、TPPの発効後10年の実質GDPが0・11~0・19%低下する。これにはTPP参加国への輸出が韓国から他の参加国に転換されることによる影響などが全て含まれている。

 よって、韓国のTPP参加国への輸出が日本へ転換することによる影響はその一部に過ぎない。しかし従来と比較して棲み分けが進んだものの、依然として日韓の輸出品目が競合している例も少なくない。つまり、韓国がTPPに参加しない場合における経済成長率低下の一定部分は、日本との関係で生ずると言える。

 さて韓国がTPPに参加すれば、日本と韓国は同じ土俵の上で、TPP参加国との輸出を競うことになるが、忘れてはならない点は、両国のTPP参加により、日韓間における自由貿易圏が実現することである。

 韓国にとって日本は、中国に次ぐ第2位の貿易相手国、日本にとっては、中国、アメリカに次ぐ第3の貿易相手国である。このように密接な貿易関係が存在し、かつ隣接する先進国においてFTAが締結されていないことは珍しく、ようやく普通の状況になるとも言える。

 日韓の貿易関係で指摘される点として恒常的な日本の貿易黒字がある。そして日韓間で関税が撤廃されれば、さらに日本の貿易黒字が膨らむといった懸念も聞かれる。

 2012年は1兆7000億円と久しぶりに2兆円を切ったが、ここ10年を見ても07年の3兆2000億円をピークに、平均で2兆5000億円となっている。

 しかし貿易収支が黒字であることが競争力の優位を示すわけではなく、二国間の貿易収支について議論する意味は小さい。

 日本の黒字が継続している理由は、日本が韓国に部品を供給しているからである。外務省の資料によれば、OECD/WTOによる付加価値を考慮した新指標では、09年における韓国の対日赤字は3億6000万㌦に過ぎない。

 この指標によれば、韓国が日本から部品を輸入し、この部品を使った完成品を輸出した場合、日本からの輸入額はゼロとカウントされる。

 つまり韓国で最終的に需要される日本製の部品や完成品の総額は、日本で最終的に需要される韓国製の部品や完成品の総額と大きな差があるわけではない。

 ただし、経済産業省によれば、韓国は製造業の輸入品に対して関税をかけている。

 自動車については、完成車で8%あるいは10%、自動車部品が8%、その他の製品も、プラスチック製品で4~8%、一般機械で3~13%、機械類・電気機器類で3~16%の関税がかけられている(09年における数値)。

 一方、日本は製造業の輸入品に対してほとんど関税をかけていない。よって製造業について見れば、韓国の輸出には変化がない一方で、日本の輸出が増えることとなろう。しかし韓国の消費者は日本製品をより安価に手にすることができるようになり、経済厚生の観点からは韓国はプラスの影響を受ける。

 いずれにせよ、韓国のTPP参加によって、日韓間に自由貿易圏ができるわけであり、ようやく日韓は経済面で先進国の隣国関係になると言えよう。