◆国内外での政治経済の競争力強化を◆
昨年12月19日深夜、外は零下10度近い。針を刺すだけでパキッと割れそうなくらい空気が凍っていた。寒さから逃げて戻ってきたソウル・麻浦の定宿ホテルの12階から、新大統領に選ばれた朴槿惠氏を乗せた車の集団が、2台の白バイに先導されて、下の大通りを猛スピードで光化門へ向かって行くのを目撃した。
彼女の父、故朴正熙大統領が酒席で凶弾に倒れて33年後、彼女は再び大統領府に戻ることになった。そこはかつて、父より先に非業の死をとげた母に代わってファーストレディーとして住み、これからの5年間を最高統治者として国家を指導する舞台である。
1979年10月27日、故大統領が殺害された翌日から、私はソウルに一週間滞在した。戒厳令下で、故人の国家建設への巨大な貢献を知らされた。「国家あっての国民」を強力に推進し、強い国家建設にまい進している韓国と、困窮に苦しみながら明日に向かって熱く・明るく働いている人々の姿に、感動したことを今でも鮮明に憶えている。
そして今日、故人の愛娘が、父の残した大きなプラスの遺産に支持され、直接選挙で、しかも予想を超える大差で、第18代の大統領に選ばれた。その瞬間を、私は目撃することができた。
朴槿惠新大統領を山ほどの課題が待っている。なかでも、大財閥が支配しているといわれる富の国民への公正な分配(=経済民主化)を実現することと、朝鮮半島を中心とした東アジアでの安全保障を確保するため周辺国との協調体制を構築する、の二大課題の解決が待ったなしだ。今回は、経済民主化について私見を述べる。新大統領の経済民主化の目標は、「経済成長と所得格差是正を両立する」だ。韓国経済の競争力(とくに対日競争力)をここまでに高めた財閥主導の成長モデルを生かしながら、財閥に偏重している富を再配分して、国民全ての努力が報われる公正な社会を創ることである。だから、財閥を解体することが経済民主化だ、という極端な意見とは一線を画し、財閥から社会的責任として物心両面の協力を引き出して、低所得者が自らの力で所得を増やす能力を身に着ける教育・訓練の支援や、環境整備=雇用を増やす産業開発などが、政策の柱になるだろう。と同時に、財閥の競争力を削ぎ落とすことなく、その不正・腐敗を正す有効な規制も必要である。
低所得者の困窮度が高まるなか、財閥グループは、国内で、新産業を開発することなく、中小零細企業が中心の既存ビジネスに触手を伸ばして侵食し、更に大きな怪物になりつつある。だから、有効な財閥規制が必要だ。
このような見境のないビジネス拡大を抑制・禁止する、関連・下請け中小零細企業への過度な低価格納入の強制とかその技術の奪取をやめてフェアな取引をする、財閥の支配権・経営権を独占しようとするオーナー一族の不正・腐敗などを防止する、が規制の中心になるだろう。しかし、忘れてならぬことがある。全ての経済活動は、「天は自ら助くる者を助く」「人事を尽くして天命を待つ」人間の営為だ。今後の中小零細企業は、財閥や大企業の下請けや二番煎じのコモディティー(価格だけが競争力)を提供するだけでなく、自らを助け、「独自の価値を持つ、オンリーワンの商品・サービス」の提供者にならなければならない。あらゆる経営の面で、技術革新はもとより、上で述べた提供価値の革新、顧客のニーズ・ウォンツを満たす商品開発から売り方にいたるマーケティングの革新などを、身を切り血を流しながら実行しなければいけない。
経済民主化とは、財閥企業の不正・腐敗を正す一方で、この点に選択集中して、中小零細企業の経営のレベルアップを支援することだろう。雇用の95%超を担う中小零細企業が強くなるほど、国民の所得格差が縮小・是正されてくる道理である。