◆国民の和合と繁栄の両立を◆
昨年12月19日の韓国大統領選挙は、その3日前の日本の衆議院の総選挙とは全く違う、韓国ならではの様相を際立たせた。先ず、自分たちの大統領を直接選挙で選ぶ手応えがある韓国と、総理大臣を間接的にしか期待できない日本との違いである。一つはそのせいだろう。選挙への熱気や盛り上がりがすごく、投票率は過去二回の大統領選よりも高く75・8%だった。日本の60%未満・戦後最低の投票率との差が大きい。権利であり義務でもある投票を放棄しながら、批判は声高にする無責任な人が多いのが日本の現実だ。
そして韓国の、世代間での投票率の違いや主義・主張の対立が大きく浮き彫りになった。
国論が二つに分裂し、今後対立がますます深刻になる恐れが十分にある。半数近い反対派を含む国民を和合・団結させて、内外で山積みの経済課題や安保課題を解決する積極果敢な政策の実行は、口で言うほど容易ではないだろう。
大統領選で見えてきた韓国社会の大きな変化のうねりをどう理解すればいいのか、30年近く韓国とビジネスを通じた交流をしてきた日本人の友人(KTさん)と、滞在中のソウルと東京間で、やり取りしたメールの要点を紹介したい。
◇朴新大統領を実現した50歳代以上、反対した20~30歳代◇
【KTさん】韓国の大統領選挙が、朴候補の勝利で終わり、私もそうですが皆さんも取りあえずホッとされているのではないでしょうか。KCGさん(KTさんと私の共通した30年来の韓国人の友人)は喜色満面のメールを送ってきています。しかし私にはただ1つ、ごく単純なことで分からないことがあります。
朴候補の支持者の顔は目に浮かぶのですが、文候補の支持者の顔がいまひとつイメージできないのです。先日OK氏が出演したNHKBSの選挙速報番組があり、李明博政権のために窮迫を強いられ与党への信頼を失い、文候補を支持することになった中小企業経営者たちが出ていて、それはよく理解できたのですが、それだけであんなに伯仲するほどの勢力にはならないと思います。できれば林さんからでも解説していただければと思っています。
【私】朴候補の当選は、「投票日直前の18日に、文候補がかなり優勢との情報があり、50才以上の保守層が危機意識に駆られて、投票行動に出て逆転したからだ」と、ソウルで新聞を読み、現地の人たち、そして、日本の新聞社の特派員たちから聞きとっていました。その後明らかになった調査結果はこうでした。
50代の投票率が最も高く89・9%、続いて60代が78・8%でした。それに対して、20代は65・2%、30代は72・5%、40代は78・7%。保守派が大多数である高年齢者の投票率が高く、文候補が当選したら、韓国の政治体制が、大きく親北朝鮮に変わる危機意識を持って、彼らが朴候補に雪崩を打つように投票したとのことです。とくに50代の投票者の63%が、朴さんに投票したと出口調査で集計されました。
韓国社会が今、大きく二つに分裂しています。「反北朝鮮の保守で、経済成長と格差是正の両立を求める」人たちは、現役でバリバリ働いている40代・50代以上です。「親/容北朝鮮の変革で、財閥を解体してでも格差是正を要求する」人たちは、20代・30代の過半数・40代の半数近く。これまでの全羅道と慶尚道間の地域対立に加えて、世代間での国の体制に対する価値観の対立が今回は尖鋭に出てきました。
【KTさん】早速、返事を下さって感謝しています。投票率が逆ピラミッドになったことが朴候補者を利したらしいことは日本のマスコミでも指摘されていますが、その雰囲気を林さんが伝えてくれてよく分かりました。
私が、顔が見えないと考えるのは文候補者の支持層のほうです。李政権に裏切られた思いの中小企業経営者、それから、若者たちがその一部をなしているだろうことは分かる気がします。しかしそれだけで、あんなに高い得票率にはならないだろうというのが私の感想です。
【私】得票率の高さに、日本人には分からない韓国人の思いが反映していると思います。韓国は今、80年代後半までの軍事独裁時代にはあり得なかった、5年に一度「直接選挙で我らが大統領を選ぶ」直接民主主義の国です。
自分の投票で大統領を選べるスリル。夕食を一緒にした韓国人たちは、大統領選の話題、朴候補と文候補のどちらが有利か、で盛り上がり、ゲストの私が一緒にいることなど眼中にありませんでした。不謹慎ですが、ゲーム感覚で楽しんでいるようでした。
朴新大統領は、勝利宣言の中で約束した「二分した国民の和合」をどう実現するのか、重い課題を背負いました。
国民の和合を実現し、そして「国家をますますの経済的繁栄と安全保障の確保に導く」と公約した新大統領への国民の期待は本当に大きいと思います。