◆3カ国が相互の補完関係と競争関係に◆
日韓中3カ国の通商関係は、2国間毎の三つの関係ではなく、3カ国間の補完関係と競争関係の表裏一体である。日韓中が巨大な「東アジアの工場」を構成していて、中間財などを相互に補完し合って、食品・アパレル・日用品・デジタル家電・スマホ・デジカメ・自動車などの最終財を生産、全世界に輸出している。生産・輸出ではパートナーでありつつ、世界の最終財の販売市場では、喉を切り裂く競争を繰り広げている。日韓中の「通商三国志」を4回シリーズで検証し、今後の展望をする。
3カ国の供給網(SC)とVC(価値創造)での補完関係を、テレビ・デジカメ・スマホなど例にして説明する。日本は、外国から原材料を輸入して、素材(液晶フィルムや半導体ウエハー)・中間財(部品やデバイス)・資本財(工作機械)、以下これらを産業財と総称する、を造り、韓国や中国に輸出(韓中の輸入)する。日本の輸出=日本で創造する産業財の付加価値(収益)+外国から輸入する原材料(コスト)である。韓国は、日本からの輸入を「コスト」としてこれを使い・組み込んで、産業財を造り中国に輸出する。韓国の輸出=韓国が創造する産業財の付加価値(収益)+日本から輸入した産業財(コスト)。中国は、日本と韓国から輸入した産業財を使って最終財(薄型テレビやスマホなど)を造り、全世界に輸出する。中国の輸出=中国で創造する最終財の付加価値+日本・韓国から輸入した産業財である。この他に、韓国と中国から日本へ産業財の輸出がある。そして、日本と韓国からの最終財の中国や世界への輸出もある。
このように日韓中は「自国に不足する産業財」を補完しあい、「最終品の輸出で黒字を稼ぐ」ウィン・ウィン・ウィンの関係なのだ。3カ国の品目別の輸出構成比(2010年、RIETI TID)によると、日本は産業財で全輸出の78%、韓国が77%、を占める。中国は最終財が全輸出の60%だ。日韓の産業財の輸出先は中国が第1位。日本の産業財輸出の56%をしめる。韓国は2番目の輸出先である。
日韓中は、「東アジアの工場」で相互に補完をしつつ、一方では世界市場での販売では熾烈な競争を続けている。その結果、09―11年の累計でみると(図表1)、日本は「アジアの工場」への垂直統合SCの川中の主導権を握り、韓国と中国からそれぞれ900億㌦と890億㌦の貿易黒字を稼いでいる。韓国は、中国との1270億㌦の黒字が対日赤字分を穴埋めしている。中国は、日本と韓国への中間財の依存度が高いが、アメリカとEUで最終財の市場プレゼンスが圧倒的で、合計9240億㌦の黒字を稼いでいる。日本と韓国の合計黒字の4倍超の巨額である。
3カ国の消費市場では、各国発企業の最終財が相互に輸出入されプレゼンスを高めているが、消費者にとっては「商品そのものの生産国」ではなく、それを販売する企業や商品ブランドの出身国で日本製、韓国製、中国製と認識する。たとえば中国市場で販売される日韓中各企業の自動車、デジタル家電、食品などはほとんど全て中国での生産だが、これら最終財に組み込まれている産業財そして生産技術まで日韓が提供していることへの中国人消費者の理解が不足している。政治的なコンフリクトが起こるたびに、韓国や中国、とくに中国で、日本品排撃が叫ばれ、巨額な対日赤字は日本のアンフェアな貿易のせいにされるが、「アンフェア」の非難は「相互補完に対する理解不足」がその原因である。
日韓中3カ国は、2国間の貿易収支に一喜一憂する必要はない。全世界での貿易取引で大きな黒字が得られており(図表1)、3カ国間の相互貿易が、各国の経済成長にポジティブに貢献している。一方自国経済への貢献の度合いは、(A)輸出額は、[(B)自国が創造する付加価値(収益)+(C)他国から輸入する産業財(コスト)]の合計だから、(B)が大きいほど、ネット(B)―(C)の、自国産の付加価値である黒字が大きくなる。OECDの「付加価値貿易」のデータを借用して、そのことを説明したい。図表2で、通常の2国間貿易の収支(グロス)と、日韓中発の付加価値貿易、付加価値が最終的にどの国に届けられたか、の収支(ネット)を比較した。3カ国が相互の補完関係と競争関係にあることを数字で裏付けている。