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2013/08/30

<トピックス>切手に描かれたソウル 第36回 「聖水大橋」                                                 郵便学者 内藤 陽介 氏

  • 郵便学者 内藤 陽介 氏

    ないとう・ようすけ 1967年東京都生まれ。東京大学文学部卒業。日本文芸家協会会員、フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を研究。

  • 切手に描かれたソウル 第36回 「聖水大橋」

    ライトアップされた聖水大橋

◆4車線に拡幅され97年7月に再開通◆

 8月30、31日の両日、旧ソウル市庁舎前のソウル広場を中心に「ソウル文化の夜(ソウルオープンナイト)」が開催される。

 このイベントは、ソウルの健全な夜間文化を広く国内外に知ってもらおうとソウル市が年に1回開催するもので、6回目の今年は、ソウル広場でキャンプ体験を楽しむ「MTソウル」や、市民参加型のコンサートなどが行われるほか、期間中は市内の美術館や博物館、公演会場などの文化施設を22時頃まで延長し開館するという。

 他の大都市同様、ソウルにも夜景を楽しめる場所は少なからずあって、夜景を取り上げた切手もこれまでに何種類か発行されている。

 その中には、南大門や汝矣島の国会議事堂、南山のNソウルタワーなどでのイベントの際の花火の切手もあって、なかなか華やかなのだが、今回は日常的な夜景の美しさを感じさせる1枚として、2007年に発行された「韓国の橋シリーズ」のうち、聖水大橋を取り上げた切手をご紹介したい。

 聖水大橋は、城東区の聖水洞と江南の繁華街、狎鴎亭を結ぶ橋で、全長1160㍍のトラス橋。1977年4月、東亜建設により着工し、79年10月、漢江に架かる11番目の橋として開通した。

 ところが、設計時には18㌧と見込まれていた標準車両荷重が、実際には24㌧で利用されていたことに加え、杜撰な手抜き工事(例えば、中央の吊り桁を鋼製トラスから吊っていたI型断面の吊り部材の溶接が不十分であったことや目視検査でも簡単に分かる手抜き施工の箇所が見逃されていたことなどが指摘されている)も原因となって、利用者からは、走行中に揺れが激しいと苦情が寄せられていた。

 このため、ソウル市当局は応急の補修工事を行ったが、そのまさに翌日の94年10月21日午前7時40分ごろ、橋の中央部分が突如崩落し、通行中の乗用車や市内バスが巻き込まれて、舞鶴女子高校の生徒8人を含む32人が亡くなる大惨事となった。

 この事故に続き、翌95年には、やはりソウル市内の三豊百貨店が手抜き工事による崩落事故を起こしたこともあって、怒った韓国国民の間には対策を求める声が高まり、災難管理法が制定され、消防防災庁直属の中央119救助隊が組織されることになった。

 一方、聖水大橋の復旧工事に関しては、国内企業に対する国民の不信感もあって、工事の統括と技術的アドバイスは、英国のコンサルタント、レンデル・パルマ-・アンド・トリトン社が契約を落札。その後、設計を変更したうえで、1995年5月、現代建設が約22億円で受注して再建工事を開始し、97年7月、聖水大橋は4車線に拡幅されて再開通した。

 ただし、現代建設による工事に関しても、2001年の調査で手抜き工事が発覚しており、韓国土木業界の体質があらためて問題視されることになった。

 その後、04年には8車線への拡幅工事が行われ、橋は現在の姿となったが、とりあえず、深刻なトラブルは報告されていないようだ。

 さて、切手に取り上げられたような聖水大橋の景色を見るには、漢江の遊覧船に乗るのが良いだろう。

 汝矣島から蚕室行きの船か、蚕室から出てひとつ先の東湖大橋まで行って戻ってくる船のどちらを選ぶかは人それぞれだろうが、残暑厳しい中で、ソウルの「夜間文化」を楽しめることは間違いない。