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2014/03/14

<トピックス>私の日韓経済比較論 第38回 経済革新3カ年計画                                                    大東文化大学 高安 雄一 教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2013年より教授。

  • 私の日韓経済比較論 第38回 経済革新3カ年計画

         経済革新3カ年計画を発表する朴槿惠大統領

◆長期成長へ、技術進歩率高める施策を◆

 2月下旬に「経済革新3カ年計画」が公表された。この計画では「足腰の強い経済」、「躍動的な革新経済」、「内需・輸出の均衡経済」を推進戦略として、「公共部門革新」など九つの課題に、「統一時代への準備」を加えた課題に取り組むとしている。

 そして、これら課題に取り組む結果、2017年には①雇用率70%②実質成長率4%③1人当たり国民所得が4万㌦に向かうといったマクロ経済の姿が示されている。

 計画というと、計画最終年の目標が示され、これを実現するための施策が示される形が標準であり、この計画もそのような構成となっている。しかし、目標とは関係のない施策が多く盛り込まれている半面、目標のために重要な施策が抜けているといった印象を受けた。

 以下では、計画で示された17年のマクロ経済の姿を事実上の目標と捉え、計画の問題点を考察していこう。

 まず「実質成長率4%についてである。12年、13年と4%成長を下回った。しかし潜在成長率は現在においても4%前後と考えられ、ここ2年間それを下回った理由は、アメリカを始めとした世界経済の成長鈍化により輸出が不振を挙げることができる。よって適切なマクロ経済政策を講じつつ、世界景気の回復を待てば、4%成長に回復することは難しいことではない。17年における実質成長率4%を達成することが目標であれば、マクロ経済政策の適切な運用を計画に盛り込むべきであった。

 次に「1人当たり国民所得が4万㌦に向かう」である。12年の一人当たり国民総所得は2万2708㌦である。実質成長率が4%、物価上昇率3%で推移し、ウォン・ドルレートが変化しないと仮定すると、17年の一人当たり国民総所得は3万2000㌦に若干届かない水準となる。

 しかし21年まで待てば、4万㌦を達成することが見込まれる。このためには、潜在成長率の維持、ウォンが減価しないことが重要であり、先に示した適切なマクロ経済政策に加えて、08年のようなウォン暴落を防ぐための対策が計画に盛り込まれるべきであった。

 最後に「雇用率70%」である。計画では青年雇用率(15~29歳)を39・7%から47・7%、女性雇用率(15~64歳)を53・9%から61・9%にするとの目標値を示している。青年の雇用率が低い理由としては、専門大学も含めると大学進学率は80%を超えるなど、進学率が高まっていることを挙げることができる。

 また高学歴者は大企業のホワイトカラーを目指す傾向にあると考えられるが、そのような働き口は増えていないためミスマッチが生じ、就職できない若者が増えている。

 女性の雇用率が低い理由は、結婚や子育てにより職を離れるケースが多いとともに、一度職から離れると再就職が難しいためと考えられる。女性の進学率も高まっており、その能力を活かせる働き口は限定的と言わざるを得ない。青年や女性の雇用率を高めるためには、単に働き口を用意するだけでは十分ではなく、ミスマッチが生じないような働き口を創出する施策が盛り込まれる必要があった。

 「経済革新3カ年計画」に盛り込まれた施策を見ると、計画で示された17年のマクロ経済の姿を達成させるために必要な施策が盛り込まれていない。

 一方で、公企業改革、社会保障政策(雇用保険対象拡充)等、重要であるが、この計画に盛り込むべきか首をかしげる施策が多い。

 韓国は今後、高齢化が急速に進み、潜在成長率の低下をもたらす。韓国が抱える一番深刻な問題の一つ、すなわち高齢化による成長鈍化を克服するためには、技術進歩率を高めることが必要である。今回の計画は、長期的な成長率維持に焦点を当てて、技術進歩率の引き上げのための施策を中心に盛り込めば、より計画との名にふさわしかったのではないだろうか。