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2015/06/05

<トピックス>切手に見るソウルと韓国 第56回 顕忠日                                                   郵便学者 内藤 陽介 氏

  • 郵便学者 内藤 陽介 氏

    ないとう・ようすけ 1967年東京都生まれ。東京大学文学部卒業。日本文芸家協会会員、フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を研究。

  • 切手に見るソウルと韓国 第56回 顕忠日

          61年発行の「顕忠日」記念切手

◆軍人・軍属など埋葬した国立ソウル顕忠院、北への警戒喚起へ切手発行◆

 6月6日は韓国では「顕忠日」の祝日だ。顕忠日は、もともと、朝鮮戦争の戦没将兵・軍属を追悼し、顕彰するため、1953年7月の休戦から3年が経つのを前に、1956年4月の大統領令により、「顕忠記念日」として制定された。

 その前年の1955年には、主として朝鮮戦争で戦死した軍人・軍属を埋葬するための「国軍墓地」がソウルの銅雀に造られた。その後、朝鮮戦争の戦死者だけでなく、「殉国先烈」(独立運動の活動家)や「国家有功者」も埋葬されるようになったことから、1965年に「国立墓地」と改称された。1996年には顕忠塔や位牌奉安館、顕忠門などが建設されて「国立顕忠院」となり、2006年に現在の「国立ソウル顕忠院」と改称された。顕忠院の入口は、地下鉄9号線・4号線の銅雀駅と直結していて、年中無休で無料開放されており、いつでも参拝・見学が可能である。

 16万9000人の霊が眠る143万平方㍍の広大な敷地は、前方を漢江、背後を冠岳山麓の孔雀峰に囲まれた、緑豊かな静寂の地で、都心にいることが信じられないくらいだ。

 全埋葬者の80%は、開設の趣旨に照らして、朝鮮戦争の戦没者だが、「国家有功者」として、李承晩、朴正熙、金大中の歴代大統領のほか、解放直後に北朝鮮で非業の死を遂げた「朝鮮のガンジー」こと曺晩植(ただし、墓所のみで遺骨は埋葬されていない)、在日コリアンの北朝鮮への「帰国事業」を阻止しようとした新潟日赤センター爆破未遂事件の関係者、ベトナム戦争の戦死者、1983年の北朝鮮によるラングーン・テロ事件の犠牲者の墓などもあり、墓石をじっくり見ながら散策すれば、それだけで韓国現代史を体感することができる。


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