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2015/08/07

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第2回 韓国の非正規労働①                                                    駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 朴昌明_140214.jpg

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

◆政府は601万人、労働団体は838万人と発表◆

 昨秋に「未生」という韓流ドラマが話題になった。このドラマでは、主人公であるチャン・グレがプロの囲碁棋士の夢に挫折し、アルバイト生活を経てインターン社員として総合商社に入社し、正社員を目指し様々な困難を乗り越えていく。最終回で正社員に転換されなかったチャン・グレは、韓国社会における若者非正規職の象徴的存在となった。そのため、非正規労働者の雇用・労働条件の改善を目指し、労働・市民団体が「チャン・グレ サルリギ(チャン・グレを救う)運動」を展開するに至っている。このように、韓国における労働問題で近年最も社会的に注目を受けているのは、非正規労働である。

 では、韓国の非正規労働者数について見てみよう。韓国では非正規労働者の定義や分類方法をめぐり激しい議論が展開されてきた。その影響を受け、非正規労働に関する学術論文や労働団体の資料を見ると、政府の公式統計以外にも様々な定義・分類方法を用いて非正規労働者数が計上されている。

 今回のコラムでは、政府(統計庁)と労働団体(韓国労働社会研究所)の統計を紹介する。統計庁の「経済活動人口調査:勤労形態別付加調査」(15年3月)によると、非正規労働者数は601万2000人で賃金労働者全体の32・0%に相当する。他方、韓国労働社会研究所は統計庁の上記の統計(15年3月)を用いつつ独自の定義・分類方法に基づいて非正規労働者数を計上している。

 韓国労働社会研究所が「非正規職の規模と実態」という報告書で発表している非正規労働者数は838万8000人で賃金労働者全体の44・6%に及ぶ。両者の統計を比較すると、非正規労働者数は200万人をはるかに超える相違が発生している。

 なぜ政府と労働団体の統計で非正規労働者数について大幅な差が発生しているのであろうか?

 まず統計庁の場合、雇用形態を正規職・非正規職の主たる分類基準にしており、①限時的労働者(契約社員など)、②時間制労働者(パートタイム)、③非典型労働者(間接雇用・特殊雇用など)のいずれか一つにでも該当すれば非正規職に分類される。

 他方、韓国労働社会研究所の場合、統計庁の上記の定義による非正規労働者に加えて、「経済活動人口調査の付加調査では『正規職』にされる一方、同調査の本調査では『臨時・日雇い職』とされる労働者」も非正規労働者に分類される。いわば、「臨時・日雇い正規職」の分類方法の相違によって政府と労働団体側が発表する非正規労働者数に大幅な差が発生するのである。


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