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2016/07/01

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第13回 韓国の若者雇用④「公務員受験」                                                    駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

  • 韓国労働社会の二極化 第13回 韓国の若者雇用④「公務員受験」

    公務員試験受験者のための予備校はいつも超満員だ

◆社会問題化した「公務員浪人」◆

 前回のコラムで、韓国における若者の雇用情勢について分析するためには失業率のみならず就業率に着目しなければならないことについて述べた。なぜなら、非経済活動人口のなかに潜む未就業者のなかに就職難に苦しむ若者が数多く存在しているからである。なかでも、公務員試験などにみられる大規模の受験浪人の存在は韓国の若者の厳しい雇用情勢を反映している。

 統計庁の「2015年社会調査」によると、青少年のいずれの年齢階層においても2割以上が「国家機関」すなわち公務員を「最も希望する職場」と回答している(13~18歳25・5%、19~24歳21・9%、25~29歳23・8%)。そのため、公務員受験者は大変多く、全体で40万人にのぼるとも推定されている(インターネット世界日報、16年6月15日記事)。

 公務員のなかで最も受験人口が多いのが国家公務員9級(日本の高卒程度国家公務員一般職試験に相当)である。サイバー国家考試センターの統計資料によると、今年の国家公務員9級の選抜予定人員が4120人であるのに対し、受験申込者数は22万1853人にのぼり、競争率は53・8倍と高い数字である。

 高い公務員人気と厳しい受験戦争の結果、韓国では数多くの公務員浪人が発生し、社会問題となっている。

 統計庁の「経済活動人口調査:青年層付加調査」によると、15年5月時点における15~29歳の非経済活動人口(513万人)のうち、就業準備者(就職浪人)が63万3000人存在する。

 この数字は、同時期の15~29歳の失業者数(40万6000人)を大幅に上回っており、韓国社会における就職浪人の問題がいかに深刻であるかを物語っている。就業準備者のうち最も高い割合を占めているのが一般職公務員(34・9%)であり、20万人を超える公務員浪人が存在する。

 公務員試験には年齢制限があるため、年齢制限に引っかからないうちに受験に合格する必要がある。受験浪人をしている間は家族の支援やアルバイトなどで生活を維持しながら猛勉強をしなければならない。

 もし受験に挫折した場合、実務経験などがないため、民間企業などに就職したくても極めて困難な状況に追い込まれる。そのため、公務員浪人が抱える将来への不安はとても大きい。

 エスカレートする公務員人気と受験生が抱える不安は韓国社会に様々な弊害をもたらしている。今年に入りそれを象徴する二つの事件が発生した。

 第一に、今年2月から4月にかけて公務員受験生が政府庁舎に侵入し、採用担当部署のパソコンを操作して自分の名前を合格者名簿に載せるという事件が発生した。第二に、今年6月に公務員受験生の大学生が自らの人生を悲観してマンション20階から飛び降りたが、職場から帰宅してきた公務員の上に落下して二人とも死亡するという悲劇が起こった。

 韓国で公務員受験熱が高い背景としては、公務員の良好な給与水準や雇用安定性の高さが挙げられる。

 人事革新処の報道資料(16年1月5日記事)によると、国家公務員9級の月あたり基本給は1号俸(女性の初任給)が134万6400㌆であり、3号俸(兵役を終えた男性の初任給)は147万6500㌆である。しかし、インターネット連合ニュース記事(16年2月9日記事)によると、公務員には様々な手当がつくため、国家公務員9級の年俸は2500万~2600万㌆になる。


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