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2016/09/30

<トピックス>私の日韓経済比較論 第65回 GDP速報値                                                   大東文化大学 高安 雄一 教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。

◆日韓で異なる四半期別推計方法◆

 近年、日本の統計が批判されている。論点は大きく2つあり、ひとつは正確性の問題、ひとつは速報性の問題である。

 後者の速報性については、とくに四半期別GDPの速報値(Quarterly Estimates=QE) が取り上げられることが多い。日本ではQEは2次に渡って公表され、1次QEは四半期が終了してから1カ月と2週間後に公表され、16年4~6月期の1次QEは、同年8月15日に公表された。

 一方、日本の1次QEに相当するものは韓国では四半期速報値と呼ばれ、四半期終了後28日以内に公表されることとなっている。実際、16年4~6月期の四半期速報値は同年7月26日、すなわち、日本より20日早く公表されている。

 日本で1次QEを早く公表できない理由として、基礎統計が作成されるまでに時間がかかるという事情がある。

 日本では需要項目ごとに推計を行い、これを積み上げてQEを算出している。家計最終消費支出であれば、「家計調査」や「鉱工業指数」など、民間設備であれば1次QEでは「鉱工業指数」など、2次QEではこれに加えて「法人季報」が基礎統計である。

 しかし、「家計調査」と「鉱工業指数」は毎月翌月末に公表され、「法人季報」にいたっては四半期終了後2カ月以上公表までにかかる。そこで、日本では基礎統計の作成・公表を早めるべきといった主張も聞かれる。

 ただし現在においても基礎統計の作成・公表スケジュールはタイトであり、これを早めることは容易ではない。四半期速報値の公表が早い韓国でも、その基礎統計の公表が早いわけではない。

 家計最終消費支出の基礎統計は、「サービス業動向調査」(小売販売額)や「家計動向調査」など、設備投資の基礎統計は「鉱工業生産調査」や「通関統計」などであるが、「通関統計」を除き、公表のタイミングは翌月末と日本と変わらない。

 つまり韓国では、四半期の最終月、具体的には、4~6月期であれば6月の基礎統計が公表される前に、四半期速報値が公表されるわけである。最終月の基礎統計がないのにどうして四半期速報値を公表できるだろうか。実は、GDP統計の作成を担当している韓国銀行は、最終月における基礎統計の数値を推計することで補っている。

 例えば、家計最終消費支出であれば、百貨店、大型マート、コンビニエンスストアの本店などに対しヒアリング調査を行っている。また乗用車、各交通といった業界情報や他の利用できるデータも利用するとともに、手がかりが得られない部分については、時系列モデルを使った推計も行うことで、最終月の数値を推計している。


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