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2016/12/16

<トピックス>切手に見るソウルと韓国 第74回 憲法裁判所                                                         郵便学者 内藤 陽介 氏

  • 郵便学者 内藤 陽介 氏

    ないとう・ようすけ 1967年東京都生まれ。東京大学文学部卒業。日本文芸家協会会員、フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を研究。

  • 切手に見るソウルと韓国 第74回 憲法裁判所

    1989年9月1日に発行された憲法裁判所1周年記念切手

◆国家権力の濫用を牽制する独立機関◆

 朴槿惠大統領の弾劾訴追案が9日に国会で可決されたことを受け、弾劾可否の行方は憲法裁判所の審理に移った。

 そこで、今回は、韓国の憲法裁判所について。

 韓国の司法制度は三審制が採られており、日本の最高裁判所に相当する大法院(ソウル特別区瑞草区)の下、ソウル、光州、大邱、大田、釜山の5大都市に高等法院(日本の高等裁判所に相当)が、ソウル(4カ所)、釜山、大邱、仁川、光州、大田、蔚山、水原、議政府、春川、昌原、清州、全州、済州の各都市に地方法院(日本の地方裁判所に相当)が置かれているほか、家庭法院(日本の家庭裁判所に相当)も置かれている。

 これに対して、憲法裁判所は上述の通常の司法制度とは別に、1987年10月の憲法改正によって設置が決められた。

 現行の大韓民国憲法では、第6章(第111~113条)が憲法裁判所についての規定となっている。

 それによると、憲法裁判所は、①法院の提請による法律の違憲性の審判、②弾劾の審判、③政党の解散の審判、④国家機関相互間、国家機関と地方自治団体間又は地方自治団体相互間の権限争議に関する審判、⑤法律が定める憲法訴願に関する審判、を管轄する。(第111条1)

 裁判官は、法官の資格を有する9人で構成され、裁判官は、大統領が任命する(第111条2)が、このうちの3人は国会が選出した者を、また別の3人は大法院長(日本の最高裁長官に相当)が指名した者を、大統領は任命しなければいけないことになっている(第111条3)ほか、憲法裁判所の長は国会が同意しなければ大統領が任命できない(第111条4)とされている。

 ちなみに、ここでいう〝法官〟の資格とは、15年以上の経験のある40歳以上の者のうち、①裁判官、検察官、あるいは弁護士である者、②弁護士資格を有し政府または公定機関で法律問題に従事した者、③弁護士資格を有し大学の助教授以上の地位にあった者である。

 また、憲法裁判所の裁判官の任期は6年で再任は可能(第112条1)で、弾劾または禁錮以上の刑が確定しない限り罷免されない(第112条3)が、政党に加入し、又は政治に関与することはできない(第112条2)。

 また、憲法裁判所で、法律の違憲認定、弾劾、政党解散の決定、又は憲法訴願に関する認容決定をするときは、裁判官6人以上の賛成が必要(第113条1)とされており、そのために、憲法裁判所は、法律に抵触しない範囲内で、審判に関する手続き、内部規律及び事務処理に関する規則を制定することができる(第113条2)とされている。

 この規定からもわかるように、憲法裁判所は、国民の権利・自由を擁護し、国家権力の濫用を牽制する独立の機関、端的に言えば、大統領の暴走を食い止めるブレーキ役という性質の機関である。長年、軍事独裁政権下で国民の権利と自由が押さえられてきたことへの反省を踏まえたものといってよい。


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