◆韓国労総と民主労総の二大体制続く◆
労働組合の組織形態は職業別組合、産業別組合、企業別組合、一般組合、ナショナルセンターなど様々であるが、最もマクロな組織形態は全国中央組織であるナショナルセンターである。
韓国のナショナルセンターの場合、韓国労働組合総連盟(韓国労総)と全国民主労働組合総連盟(民主労総)の「二大労総」が存在する。
韓国労総は2015年時点で組合員84万3000人(表1)と3028組合(表2)を有する韓国最大規模のナショナルセンターである。
韓国労総は25の産業別組織を傘下としており、金属・金融・自動車・タクシー・化学・公共部門などの組合員が多い。韓国労総が結成されたのは1961年であり、その後約30年に及ぶ軍政期において韓国労総は政府の労働統制を受け入れる御用組合の性格が強かった。
しかし1993年の文民政権発足により民主化が達成されてからは、韓国労総傘下の組織によるゼネストや民主労総との共同闘争など従来の親政府的路線から一線を画すようになった。
また、韓国労総は政労使合意方式による政策決定空間に参与することが度々見られたが、労働関係法改定等をめぐり政府・使用者側と激しく対立して労使政委員会を脱退するなど政策参加は必ずしもうまくいっていない。
民主労総は2015年時点で組合員63万6000人(表1)と373組合(表2)を有するナショナルセンターである。民主労総の傘下には16の加盟団体があり、公務員・教職員・金属・金融・公共運輸・建設などの産業別組織のほか、女性労働組合や学校非正規職組合が存在する。1987年の労働者大闘争を契機に成長した在野労働運動勢力が1995年に民主労総を発足させた。
民主労総の組合数が韓国労総に比べて大幅に少ない理由としては産別化推進による組合の統合が挙げられる。また、民主労総の組合員数も韓国労総に比べて20万人程度少ないが、現代自動車など大企業の組合が多く加盟しており、労働争議が発生すると大規模化・深刻化するケースも度々みられる。そのため、民主労総傘下の大企業組合が「貴族労組」・「要求貫徹主義」と社会的に批判を受けることがある。
他方民主労総は、非正規職の組織化に重点を置いており、民主労総の支援を受けて非正規職独自の組合が設立されることが多い。
民主化以降、韓国の労働運動勢力は韓国労総と民主労働の二大体制が続いてきたといえる。ただし、近年この傾向に対し、微妙な変化も見られ始めている。
第一に、「第3労総」建設の動きである。しかし、第三のナショナルセンター建設は低迷しているのが現状である。2011年に国民労働組合総連盟(国民労総)が発足したが、中核的存在だったソウル地下鉄労組の民主労総脱退の無効判決が出されたこともあり、国民労総は2014年に解散し、韓国労総に吸収された。また、かつて国民労総に所属し国民労総解散後に吸収された韓国労総から脱退した全国建設技能人労組が2015年に全国労働者総連盟(全国労総)を設立したが、雇用労働部の「全国労働組合組織現況」によると、2015年の組合員数は1万3000人と2大労総に比べて極めて少ない。
第二に、ナショナルセンターに所属しない労働組合が増加している。表2のナショナルセンター別組合員数をみると、2006年から2015年にかけて韓国労総は3429組合から2372組合、民主労総は1143組合から373組合へと大幅に減少しているのに対し、ナショナルセンターに加盟していない組合数は同期間に1317組合から3028組合へと倍以上に増加している。韓国に存在する組合の半数以上がナショナルセンターに加盟していないことがわかる。
また、表1のナショナルセンター別組合員数をみると、2006年から2015年にかけてナショナルセンター未加盟の組合員数は17万7000人から44万5000人と倍以上に増加している。
つづきは本紙へ