◆最低賃金目標額の達成年度調整、中小企業への積極的支援を◆
5月9日に実施された大統領選挙で文在寅候補が当選し、5月10日に大統領に就任した。今回のコラムから数回にわたり、大統領選挙時の公約等をもとに文在寅政権の労働政策の展望について述べていく。まず本稿では非正規雇用について検討する。
文在寅大統領は、5月12日に就任後初めての外部日程として仁川国際空港を訪問した。仁川空港には2016年10月時点で正規職(1284人)の5倍以上に及ぶ間接雇用非正規職(6831人)が存在しており(インターネットハンギョレ、2017年5月3日記事)、文大統領が空港で働く非正規労働者に面会して「公共機関非正規職ゼロ時代」を宣言したことは、非正規雇用問題に対する文在寅政権の関心の高さをアピールするものとなった。
文在寅氏は選挙公約で「非正規職規模のOECD水準への縮小」を掲げた。OECD統計によると、雇用者全体における短期雇用労働者の割合(2015年)は、韓国が22・3%とOECD加盟国の中で5番目に高く、OECD全体(11・4%)の倍の高さである。そのため、非正規雇用の割合をOECD全体の水準にまで下げるためには抜本的な改革が必要条件となる。
以下では文在寅氏による非正規労働に関する主要公約について検討する。
①非正規職の使用事由制限
現行の非正規職保護法では雇用期間が2年を超える労働者の無期契約転換制度によって正規職転換が図られているが、雇用期間が2年を経過する前に非正規職が雇止めされ、正規職転換が進まないという問題が発生した。そのため、文在寅氏の公約では雇用の「入口」で非正規職の使用を制限することで非正規雇用の規模縮小が試みられている。具体的には常時・持続的業務、生命・安全関連業務は正規職のみ直接雇用し、出産・休職欠員等例外的な場合にのみ非正規職を使用できるようにするものである(共に民主党『第19代大統領選挙公約集』)。
厳格な使用事由制限制度が導入されれば、非正規雇用の規模を縮小させる効果は高くなるものと予想される。ただし、使用事由制限制度の導入によって非正規労働者が正規職に転換される効果については十分に検証されておらず、経済状況によっては雇用の悪化をもたらす可能性も存在する。
②公共部門における非正規職の正規職転換
公共部門の労使関係においては政府や地方自治体が使用者の立場にある。公共部門における常時的業務の判断基準の緩和や正規職転換範囲の拡大を通じて政府・地方自治体が非正規雇用の縮小モデルになることを公約でうたっている(共に民主党『第19代大統領選挙
公約集』)。
公共部門において正規職転換が成功すれば、大企業などに対してもその効果が波及する可能性はあるだろう。ただしこの公約には一定の限界性が存在する。文在寅大統領が仁川国際空港を訪問した際、仁川空港公社社長は、間接雇用非正規労働者の正規職転換を約束すると同時に、子会社設立による正規職転換を考慮しているとも説明した(インターネット京郷新聞、2017年5月12日記事)。
子会社に正規職転換された労働者にとって雇用関係は子会社にあるため、雇用安定化が実現されても、賃金・福利厚生などその他の労働条件においては低水準のまま抑えられることもありうる。
③非正規職差別禁止特別法の制定
現行の非正規職保護法では労働委員会による差別是正制度が存在しているが、差別認定基準や運用面の問題などによって差別是正件数は伸びずにいる。そこで選挙公約では、「非正規職差別禁止特別法」の制定を通じて同一価値労働同一賃金原則を適用し、賃金・労働時間・成果給・退職金・社会保険・福祉制度・経歴認定等の差別を解消すること等が掲げられている(共に民主党『第19代大統領選挙公約集』)。
特別法の導入も一策ではあるが、年功制から職務制への移行など賃金制度の改編、非正規労働者に対する教育訓練やキャリア認定の強化など人的資源管理面からの改革も必要になるであろう。
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