◆「包括賃金制度」の悪用で労働時間規制の実効性喪失◆
前回は、韓国の労働時間が他の先進諸国よりもはるかに長いことや、日本と同様に韓国でも頻繁な残業や休日出勤が見られることについて解説した。ではなぜ韓国では長時間労働やサービス残業が蔓延しているのであろうか?
その要因の一つとして、労働法による規制の実効性が乏しいことが挙げられる。今回は韓国における労働時間法制について紹介する。
韓国の法定労働時間は1日8時間、週40時間となっており(勤労基準法第50条1項・2項)、法定労働時間を超える1週間の延長労働は上限12時間と定められている(勤労基準法第53条1項)。
すなわち、1週間で認められる労働時間は延長労働を含めても52時間までとなる。さらに、使用者は週1回以上の有給休日を与えるかたちで週休二日制も法律上義務付けられている(勤労基準法第55条)。このように、労働時間や休日に関する規制は日本よりも厳しい内容といえる。
他方、韓国には長時間労働を事実上容認するような法制度も存在する。第一に、弾力的労働時間制度である。勤労基準法第51条では2週以内で特定週の労働時間が48時間を超えない範囲で平均週労働時間が法定労働時間内であれば容認されており(第1項)、3カ月以内で特定週の労働時間が52時間、特定日の労働時間が12時間を超えない範囲で平均週労働時間が法定労働時間内であれば容認されている(第2項)。
先に述べた1週間の延長労働12時間を加えると、3カ月以内の弾力的労働時間制度を導入した場合、特定週において最大64時間の労働時間が可能となる。
第二に、休日労働が延長労働とは異なる概念として位置づけられている点である。休日労働は週16時間(1日8時間を週2回)まで認められていることになり、延長労働も別途週12時間可能になるため、法定労働時間週40時間も含めて合計すると、労働者を週68時間働かせることが可能になる。
法定労働時間が44時間だったときは、週休二日制が導入されておらず、最長労働時間は64時間(法定労働時間44時間、延長労働時間12時間、休日労働時間8時間)であった。しかし、週休二日制の導入・法定労働時間の短縮に伴い、最長労働時間はむしろ長くなったわけである。また、労働基準法における労働時間の規制適用を受けることができない労働者も数多く存在する。
第一に、零細企業で働く労働者に対して労働時間規制が適用されない点である。常時労働者4人以下の事業・事業場については上記の法定労働時間の適用除外対象となる(勤労基準法第11条)。
韓国では零細事業所における労働者が多い。韓国統計庁の「経済活動人口調査(勤労形態別付加調査)」によると、2017年8月時点において4人以下の事業場における賃金労働者数は356万1000人であり、賃金労働者全体(1988万3000人)の17・9%におよぶ。このように賃金労働者の6分の1以上にあたる零細事業所労働者に長時間労働を規制する法的装置が存在しないことになる。
第二に、労働時間規制の対象除外となる特例業種を設けている点である。特例業種の場合、労使間で書面合意が行われれば、法定労働時間と上限延長労働時間の合計である週52時間を超える長時間労働が法的に可能である(勤労基準法第59条)。
さらに休日労働も加算すると週68時間を超える労働時間が事実上容認されている。特例業種は、
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