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2018/07/27

<トピックス>私の日韓経済比較論 第81回 最低賃金の引き上げ                                                  大東文化大学 高安 雄一 教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。

◆2年連続2桁上昇、雇用への影響課題◆

 7月14日、2019年に適用される最低賃金が公表された。前年と比べて10・9%引き上げられた時給8350㌆であり、2年連続の10%超えとなった。文在寅大統領は2020年までに最低賃金を1万㌆に引き上げること公約としていたことから、2年連続で高い引き上げ率となったことは疑いない。

 最低賃金は雇用労働部長官が最低賃金委員会に最低賃金にかかる審議を要請し、全委員による会議で最低賃金額の案が提示される。委員は使用者側の委員が9名、労働者側の委員が9名、公益委員が9名である。使用者側と労働者側の意見には通常隔たりがあることから大学教授などから選ばれる公益委員がはたす役割が大きい。

 公益委員は大統領が任命するので、結果的には大統領の意図する方向で最低賃金の水準が決定することが通例であり、今年の委員会でも高い引き上げ率が予想された。

 当初案では使用者側は最低賃金水準の凍結、労働者側は40%以上引き上げる1万790㌆を主張し、その後、旗色の悪い使用者側は9名全員、労働者側も4名が会議に参加しなくなった。なお使用者側あるいは労働者側のいずれかが会議の席を立つことは異例ではなくよく見られる光景である。

 労働者側は翌年も同じ率を引き上げれば1万㌆となる15・3%増(8680㌆)に要求を引き下げたが、最終的には公益委員が提示した8350㌆に決定した。この水準では2020年に最低賃金を1万㌆とするためには20%近い引き上げが必要であり、事実上公約の実現は難しくなった。しかし物価上昇率が落ち着くなか、2年連続で最低賃金を2桁上昇させることは異常である。

 ちなみに韓国の最低賃金は、日本の大半の都道府県を上回ることとなる。日本では最低賃金が最高である東京都では958円である一方、最低である沖縄県、福岡県を除く九州各県、高知県は737円と東京都の77%にとどまっている。実際の為替レートで円に換算すれば、韓国の最低賃金は828円であり、これを超える都道府県は、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県に限られる。

 最低賃金は主に非熟練労働者に適用される。雇用形態別に見るとパートの時給が相対的に低く、正規職ではあるが非常用雇用者に区分される雇用者、具体的には零細・小規模の小売店、飲食店、工場で就業する雇用者などの時給も低い。よって


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